4.17

カラスが鳴かなくなって、もうしばらく経つ。
花を摘もうと思い野に出かけると、ギョッシーが囁いた。
「お花は特別なとき。お花は特別なとき。」
わたしには特別でない瞬間なんてないから
3度目の「お花は特別なとき。」を言い始める前に
花をむしり取ってやった。
ギョッシーは恐ろしげな顔でわたしを見つめ
花は悲しそうにわたしの部下になった。
彼女をベベリーナと呼ぶことにする。

ベベリーナはいつも忠実だった。
それでいて、悲しそうだった。
悲しげなベベリーナは美しくて、賢そうで
わたしが彼女を嫌いになるのは時間の問題で
ベベリーナにオリーブオイルをたっぷりかけながら、さようならをした。

悲しげな生き物は、どうして美しくて賢く映るのかしら。
カラスが泣かないことが、悲しいことくらい分かってるけど
悲しんだって仕方ないじゃない、強く生きようじゃない、お金に勝ちたいじゃない。
それなのにみんな、
オリーブオイルまみれでヌルヌルしたベベリーナに同情した。

納得がいかないのだ。
賢そうは偽物なのに。クソくらえなのに。
ベベリーナが羨ましくって、わたしは嘘つきになった。
強く生きたいなんて、ウッソぴょーん。ぴよよよーん。
けけけのけ。騙されてやんの!

強力な魔法を使って、嘘をついてることを自分に隠してたけど、
ギョッシーはいつも魔法を解きにきた。
ビール瓶を5本割ったあとに、
「花なんて摘むから魔法使いになっちゃったんだぞ」と言うのだ。
ギョッシーの中途半端な関節と、
「なっちゃったんだぞ」が憎たらしくって
魔法を使ってギョッシーの関節を全部ニトリ製にしてやったら
「ぴえーん、ふぁっしょーん」と言いながら彼は走り去った。

わたしの前に残ったのは野と魔法で
そこには何の意味もない。
昔、自分がどうしても魔法使いになりたかったことを思い出したわたしは
ちょっとだけ泣いて
結局いつまでも手に入らなかった、ベベリーナになった。
わたしの代わりにわたしになったベベリーナはわたしを見下ろすと
「本当の魔法使いはあたいでござるぞ」と言って消えてしまった。

わたしは野で、私が来るのを待つ以外ない。


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